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難治性慢性咳嗽 なんちせいまんせいがいそう 咳過敏症症候群 せきかびんしょうしょうこうぐん

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難治性慢性咳嗽とは

  • 咳は体内から異物やウイルス・細菌などを出すための反射として重要な役割を担っています。
  • 咳が8週間以上長引いている状態は「慢性咳嗽(まんせいがいそう)」と呼ばれ、感染症以外の病的な原因(気管支喘息咳喘息胃食道逆流症、副鼻腔炎/鼻炎/後鼻漏など)が考えられます。
  • 特に、原因の治療を行っても咳が続く状態(治療抵抗性慢性咳嗽/RCC:refractory chronic cough)、もしくは長引く咳の原因が分からない状態(原因不明慢性咳嗽/UCC:unexplained chronic cough)は「難治性慢性咳嗽」とされます。

咳過敏状態

  • 「難治性慢性咳嗽」には、通常では反応しないわずかな刺激に対しても神経が過敏に反応して咳が出てしまう、咳過敏状態(咳過敏症症候群/CHS:cough hypersensitivity syndrome)が隠れている可能性が考えられます。
  • 咳が出ないときでも常に「のどの乾燥やイガイガ感」「咳の衝動に駆られている」と訴える方が多いです。
  • 咳を我慢したくても、自分では止められない状態になることもあります。
わずかな刺激でも我慢できず、咳が出てしまう例

・冷気・空気の乾燥・香水などの香り・柔軟剤のにおい・たばこの煙・会話・歌う/笑う・食事

慢性咳嗽における相互関係

  • 「慢性咳嗽」では、さまざまな病気や環境因子が「気道の炎症やリモデリング*1」「咳を出す信号」を引き起こし「咳の反射」が出やすい状態になっていると考えられます。
  • 咳が長引くことで気道の炎症やリモデリング、さらに最近では気道上皮の知覚神経密度が増加*2していることも報告されており、それらがさらに症状を悪化させてしまう可能性があります。
  • このような悪循環を断ち切るためにも、早めに咳を減らす治療を行うことが重要です。

*1 気道に生じるさまざまな組織的変化
*2 airway sensory nerve density in chronic cough. Clare O.Shapiro et al. Am J Respir Crit Care Med 2021.

咳過敏症症候群の評価法

咳過敏症症候群(CHS:cough hypersensitivity syndrome)の確立された評価法はありませんが、CHSに特徴的な症状や咳の誘因を評価するさまざまな質問票があり、最近本邦ではCHQ(Cough Hypersensitivity Questionnaire)が使用されています。

この質問票は咳に関する感覚や衝動、きっかけについて評価するもので、咳と関連した「喉の感覚異常」や「咳が引き起こされる誘発因子(例:冷たい空気、たばこの煙、会話など)」などを質問して、患者さん個々の咳の特徴を確認します。

CHQでは日本語版があり、これらは原著者の許可を得て日本語訳したものであり(新実彰男先生、松本久子先生)、著作権により保護されています。無断で改編、転載することを禁止されています(誰でも使用できるものではありません)。
当院では日本語訳された先生方から特別に許可を得ており必要な患者さんにこの質問票を使用しております

難治性慢性咳嗽の治療

1. 選択的P2X3受容体拮抗薬(ゲーファピキサント/商品名:リフヌア®錠)

  • ATP*1という物質の咳への関与:クエン酸により誘発される咳が、ATPによって増加します*2
  • 咳は、気道内のATPがP2X3受容体に結合することで、受容体が開いて陽イオン(カチオン)が通過し、その刺激が神経を伝わって起きることがあります。
  • ゲーファピキサント(商品名:リフヌア®錠)は、P2X3受容体にはたらいて刺激が伝わるのを防ぐ作用があり、咳を抑えると考えられます。

ゲーファピキサント(商品名:リフヌア®錠)の副作用として「味が変わった*3」「味がわからない」などの味覚の変化があり、これらはP2X3受容体への作用に由来するものと考えられています。
お薬を開発する際に行われた治験では、リフヌア®錠の服用中に味覚の変化が現れた患者さんの割合は65.4%(447/683例)でした。多くは服用を始めてから数日以内に現れました。服用中でも、あるいは服用を止めることで96.0%(429/447例)が回復することが確認されています。

*1 アデノシン三リン酸
*2 Kamei et al. Eur J Pharmacol. 2005
*3 苦味、金属味、塩味など

世界で初めて動物実験によりATPの咳への関与を報告*2された
亀井淳三先生(順天堂大学 健康総合科学先端研究機構 特任教授)(右)と院長(左)
第317回 兵庫小児アレルギー研究会にて(2023年11月9日:神戸)

2. 非薬物療法(SLT)

  • Speech and language therapy(SLT)は言語聴覚士が咳の症状の改善を目的に行う行動療法であり、4つの要素(咳に関する教育、咽喉頭の衛生管理、咳のコントロール、心理療法)で構成されます。
  • 副作用がないことからERS(欧州呼吸器学会)ガイドラインで本治療が推奨され、二次医療機関への幅広い普及が呼びかけられています。
  • 本邦では限られた施設でしか実施されておりませんが、当院では必要に応じて院長がSLTの一部を紹介・提供しております。

咳を出さないための日常生活での工夫

咳を常に抑えようとすることは極めて大事であり、咳を止めたいときには、咳を止める工夫をしてみます。
たとえ咳を完全に止めることができない場合でも、咳の勢いを弱めたり、回数を減らすことが可能になります。

  • マスクを着用する(のどの乾燥は咳を悪化させます)
  • こまめに水分をとって、のどを潤す。
  • 氷や飴をなめたり、ガムをかむ。
  • 香辛料や脂っこい料理を控える。早食いや大食いを避ける。(胃食道逆流症の誘発を避ける)

咳をコントロールする方法

咳がでるときの呼吸動作やのどの動きとは異なる呼吸やのどの動きを、意識的に行います。
まず、日頃から咳をしたい衝動を感じないときに練習して、実際に咳が出そうなときに実践します。

  • 腹式呼吸(息を吸ったときに腹が外側に張り出し、息を吐いたときに腹が中側に引っ込む)で鼻から迅速に(匂いを嗅ぐように)息を吸い込み、強くすぼめた唇から息を吐く。
  • 顎を引いて胸に近づけた状態で少量の水分や唾液を飲み込む。

※当院では日本語版をご用意しております。

当院では、状況に応じて咳過敏対処法(咳嗽抑制戦略(原著:MONTANA大学、日本語版:松本久子先生(近畿大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学教室 主任教授)))を松本先生から特別に許可を得て使用して、患者さんに咳コントロール呼吸法などをお伝えして、咳症状の改善に取り組んでいます。

参考文献
咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019(一般社団法人 日本呼吸器学会 発刊)
咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版 2025(一般社団法人 日本呼吸器学会 発刊)
国際共同第Ⅲ相試験(027試験;COUGH-1)および海外共同第Ⅲ相試験(030試験;COUGH-2)

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